中国の家庭用NAS市場が、ここ数年で大きく変わっています。従来のNASは、ネットワークやRAIDを理解した人が管理する小型サーバーという性格が強い製品でした。いま中国大陸では、スマートフォンの写真保存、家族共有、動画再生、遠隔アクセスを前面に出し、家電やアプリに近い感覚で使わせる製品が増えています。

2026年7月の更新:UGREENの写真管理寄り入門機NASync DH2300と、TerraMasterの2.5GbE入門機F2-425を加え、国内で検討しやすい2ベイNASの選び方を見直しました。中国向けのみのZSpace等は、日本での正規販売・アプリ地域・無線機能・保証を個別に確認できない限り、輸入前提の推奨には使いません。

この動きを代表するのが、緑聯(UGREEN)、極空間(ZSpace)、鉄威馬(TerraMaster)です。SynologyやQNAPはNAS市場の重要な既存ブランドですが、中国大陸発ブランドではありません。本稿では比較の基準として触れるだけにとどめ、「中国大陸のNASブランドが何を変えようとしているか」に焦点を当てます。

結論:主役はUGREEN・ZSpace・TerraMaster

ブランド中国市場での立ち位置強み向く人
UGREEN 緑聯大手デジタル周辺機器ブランドがNASへ本格参入強いハード、2~8ベイの製品群、自社OS性能と分かりやすさを両立したい人
ZSpace 極空間家庭向け私有クラウドの代表格写真、動画、スマホバックアップ、家族共有NASを家族向けアプリとして使いたい人
TerraMaster 鉄威馬中国大陸の老舗NAS/DASブランド多ベイ、ネットワーク性能、コンテナ、拡張性自分で設定と保守ができる人

この三社は同じ方向を向いていません。UGREENは消費電子ブランドの規模と設計力、ZSpaceは家庭向けソフトウェア、TerraMasterは専門的なストレージ機器としての性能を武器にしています。この違いが、中国NAS市場の厚みを作っています。

NASとは何か:外付けHDDとの違い

NASはNetwork Attached Storageの略で、LANにつないで使う共有ストレージです。USB4対応の外付けSSDのように1台のPCへ直結する機器と違い、スマートフォン、PC、テレビなど複数の端末からアクセスできます。外出先から接続したり、家族ごとにアカウントと容量を分けたりすることも可能です。

家庭で分かりやすい用途は次の通りです。

  • iPhoneやAndroidの写真・動画を自動保存する
  • 家族の写真を一つの共有アルバムへまとめる
  • 4K動画や音楽をテレビ、スマートフォン、PCで再生する
  • PCの書類や制作データを定期バックアップする
  • Google DriveやOneDriveのデータを別の場所へ複製する
  • Dockerなどを使い、家庭内サービスを動かす

中国ブランドの変化は、この機能を単なる「サーバー管理」ではなく、写真アプリ、動画アプリ、家庭用クラウドとして見せ始めたことにあります。より自由なサービス構築を優先する人は、N100ミニPCやCasaOSを使うホームサーバーとも比較できます。

UGREEN:周辺機器ブランドから家庭のデータセンターへ

UGREEN NASync DXP4800 Plusの公式製品画像
4ベイのUGREEN NASync DXP4800 Plus。中国の周辺機器ブランドが家庭用データ基盤へ進出したことを象徴する製品です。画像:UGREEN公式

UGREENは、データケーブル、充電器、USBハブ、ドッキングステーションで知名度を築いた深圳の消費電子ブランドです。ブランドの沿革と製品分野は「UGREENはどこの国のブランドか」で詳しく整理しています。その会社がNASへ参入したことには、単なる新製品以上の意味があります。中国の周辺機器メーカーが、低単価アクセサリーから家庭のデータ基盤へ事業領域を広げ始めたからです。

NASync DXPシリーズは、2ベイから4、6、8ベイまで構成が広く、家庭用から小規模チームまでカバーします。DXP4800 Plusは4台のSATAドライブに加えてM.2 NVMeスロット、10GbEと2.5GbEを備え、写真保存だけでなく、大容量データ転送、動画サーバー、コンテナ用途まで考えた構成です。個別モデルの性能とUGOS Proの注意点は「UGREEN NASync DXP4800 Plusレビュー」で確認できます。

自社OSのUGOS Proは、ファイル管理、写真、動画、同期、バックアップ、遠隔アクセスなどを統合しています。ハードウェアだけを販売するのではなく、OSとアプリまで自社で作る姿勢が、UGREENを「周辺機器ブランド」からNASプラットフォームへ変えています。

注意点は、OSとアプリの成熟度を長期で見る必要があることです。NASは5年以上使うことも多いため、新機能の数だけでなく、セキュリティ更新、障害時の復旧手順、スマートフォンアプリの継続性が重要です。

ZSpace:NASを「家庭アプリ」に変えたブランド

ZSpace 極空間 Z4Proの公式製品画像
ZSpace Z4Pro。従来の小型サーバーという見せ方ではなく、家族向けの写真・映像・私有クラウド製品として設計されています。画像:ZSpace公式

ZSpace(中国名:極空間)は、中国の家庭用NASを語るうえで外せないブランドです。製品の中心にあるのはサーバー管理ではなく、スマートフォンの容量不足、家族写真、動画ライブラリー、遠隔アクセスといった一般家庭の悩みです。

Z4Proなどでは、写真のバックアップと整理、家族共有、4K動画再生、ダウンロード、クラウドドライブ連携、Dockerなどを一つの環境へまとめています。専門用語を減らし、スマートフォンアプリから日常的に使わせる設計が特徴です。

ZSpaceの価値は、最も高性能なNASを作ることだけではありません。従来はNASを検討しなかった家庭に、「自宅に置く大容量クラウド」という用途を理解させたことにあります。中国の家庭用ネットワークストレージが消費電子製品へ近づいた象徴です。

一方、日本で正規販売されていない中国向けモデルは、技適が必要な無線機能、アプリの地域制限、保証、遠隔接続サービスの継続性を確認できません。中国市場の動向として注目しつつ、日本から安易に輸入する製品ではありません。

TerraMaster:中国の専門NASを支えてきた老舗

TerraMaster F4-425 Plusの公式製品画像
TerraMaster F4-425 Plus。鉄威馬はNASとDASを長く手がけ、専門ユーザー向けの性能と価格競争力を強みにしています。画像:TerraMaster公式

TerraMaster(中国名:鉄威馬)は、UGREENのNAS参入より前からNASとDASを展開してきた中国大陸のストレージブランドです。中国ブランドのNASは最近突然現れたのではなく、専門ユーザーや海外市場では以前から製品を積み重ねていました。

F4-425 Plusは4ベイ、Intel N95、8GB DDR5、デュアル5GbEを備え、家庭の写真保存より一段重い用途も想定しています。複数ユーザーのファイル共有、コンテナ、クラウド同期、制作データの保管など、ハードウェア性能と構成の自由度を重視する人に向きます。

TerraMasterはDASも多く販売しています。Amazonリンクに含まれるD4-320は、USBでPCへ直結する4ベイのDASであり、単体でネットワークサービスを動かすNASではありません。価格だけで比較せず、遠隔アクセスやスマートフォンバックアップが必要ならNAS、PCへ大容量ディスクを追加したいだけならDASと区別してください。

第二陣:Lenovo・HIKSEMI・HUAWEIも家庭データへ入る

中国大陸の家庭用ストレージは、専業NASブランドだけの市場ではなくなっています。

Lenovo Personal Cloud

Lenovoはブランド、販売網、サポートへの安心感を武器に、個人クラウドを一般家庭へ広げる立場です。専門ユーザー向けの細かな設定より、写真やファイルを家庭内に保存する分かりやすさが重要になります。PCメーカーがNASを周辺機器ではなく、家庭のデータ置き場として扱い始めた例です。

HIKSEMI/HIKVISION系

HIKSEMIは、監視カメラ、SSD、メモリーカード、ストレージ機器の技術を家庭用私有クラウドへ延ばしています。MAGE20 PROのようなモデルでは、画像処理、2.5GbE、RAID 1などを訴求します。映像と保存を一体で扱ってきた企業にとって、家庭の写真・動画管理は自然な隣接市場です。

HUAWEI 家庭存储

HUAWEIの家庭ストレージは、純粋なNAS専門ブランドというより、スマートフォンと家庭エコシステムの延長です。写真や動画をHUAWEI端末から保存し、家族のデータセンターとして使う考え方が中心です。ブランド認知とスマートフォン連携によって、NASという言葉を意識しないユーザーまで取り込める可能性があります。

中国ブランドの急成長で変わったこと

中国大陸ブランドの競争によって、家庭用NASでは次の変化が進んでいます。

  1. 2.5GbE、5GbE、10GbEが上位専用ではなくなった
  2. 写真、動画、クラウド同期が標準アプリとして重視されるようになった
  3. スマートフォンから初期設定と日常管理を完結しやすくなった
  4. 2ベイから8ベイ、家庭用から小規模事業まで製品群が広がった
  5. AI写真整理やローカルAIが新しい競争軸になった

ただし、CPUやネットワーク速度が高ければNASとして優秀とは限りません。家庭用では、アプリが安定して写真を保存できるか、家族が迷わず使えるか、数年後も更新が続くかが同じくらい重要です。

2026年に日本で選ぶ2ベイの入口:写真優先か、2.5GbE優先か

中国系NASを日本で家庭用に選ぶなら、ブランドの出身国だけでなく、実際に買える型番と用途を分ける必要があります。UGREEN NASync DH2300は写真の自動保存・整理を主目的にした2ベイ機で、公式仕様は1GbEです。写真を毎日バックアップする家庭では、ネットワーク速度よりアプリの安定性、HDD選定、NAS外へのバックアップが先になります。

TerraMaster F2-425は2.5GbEを1ポート備え、写真保存からPCバックアップ、メディア利用まで広げやすい2ベイ機です。その代わり、設定・アプリの更新・アクセス権を利用者が管理する範囲も増えます。どちらもHDD別売りであり、RAID 1を選んでも誤削除や火災へのバックアップにはなりません。

選び方代表例まず優先すること注意点
写真を家族で集約したいUGREEN NASync DH2300自動保存、家族権限、NAS外コピー1GbEなので動画編集用の高速ストレージには向かない
写真以外も使いたいTerraMaster F2-4252.5GbE対応PC・スイッチ、OS更新高速化にはNAS以外の機器も必要
中国向け私有クラウドを試したいZSpace等アプリ地域、保証、無線・遠隔接続の条件日本での継続利用を確認できなければ推奨しない

DH2300、F2-425、BeeStationの違いは「Googleフォト代わりに家庭用NASは使える?」で比較しています。2.5GbEが必要になる条件と、TL-SG105-M2を使う最小構成は「家庭用NASに2.5GbEは必要?」で確認してください。

日本で購入するときの判断

日本で正規購入しやすい中国大陸ブランドとしては、UGREENとTerraMasterが現実的です。ハードウェア性能と新しいUIを重視するならUGREEN、細かな構成やネットワーク性能を重視するならTerraMasterが候補になります。

購入前には次を確認してください。

  • HDDが付属するセットか、本体のみか
  • 2ベイ、4ベイ以上のどちらが必要か
  • 2.5GbE以上を家庭内ネットワークで利用できるか
  • 写真アプリとスマートフォン自動保存の対応
  • Dockerや仮想化が本当に必要か
  • 日本語サポート、保証、OSの更新方針
  • NAS本体とは別にバックアップを用意できるか

RAIDはバックアップではない

中国ブランドに限らず、RAIDはディスク故障時に運用を続けやすくする仕組みであり、バックアップそのものではありません。誤削除、ランサムウェア、NAS本体の故障、火災、盗難には別のコピーが必要です。

大切な写真や書類は、NASだけに置かず、外付けHDDまたはクラウドにも複製してください。NASを買う予算には、本体とHDDだけでなく、バックアップ用ストレージ、必要ならUPS、ネットワーク機器まで含めるべきです。

中国NASブランドの進歩は、SynologyやQNAPと同じ製品を安く作るだけではありません。UGREENは消費電子ブランドの規模で、ZSpaceは家庭向けアプリの発想で、TerraMasterは専門ストレージの蓄積で、家庭のデータ管理をそれぞれ作り直しています。この三つの方向が同時に伸びていることこそ、中国大陸のNAS市場が急成長している理由です。

参考資料・情報源

メーカー公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外の資料を照合して構成しています。

  1. UGREEN NAS中国公式
  2. UGREEN DXP4800
  3. ZSpace(極空間)公式
  4. ZSpace Z4Pro
  5. TerraMaster F4-425 Plus
  6. HIKSEMI公式
  7. HUAWEI 家庭存储
  8. UGREEN NASync DH2300 公式製品ページ
  9. TerraMaster F2-425 日本公式製品ページ

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