中国のスマートフォン市場で、久しぶりに「見た瞬間に何か違う」と思わせる端末が登場しました。荣耀(HONOR)の「Robot Phone」です。

名前だけを見ると、AIを搭載したスマホの新しい呼び方に思えます。実際には、背面のカメラが機械式ジンバルごと起き上がり、回転し、ユーザーや被写体を追いかけます。画面の中だけで答えるAIではなく、カメラの向きという物理的な動きまでAIの判断に結びつけた製品です。

ただし、「ロボットになったスマホ」という宣伝文句をそのまま受け取るのは早計です。日常的に便利なのは、主に撮影時の追尾と自動運転です。会話相手としての親しみやすさや、複雑なタスクを任せるAIについては、まだ完成形とは言いにくい。この記事では、荣耀の公式発表と中国メディアの実機レビュー、海外メディアの比較記事を分けて、Robot Phoneの現在地を整理します。

荣耀Robot Phoneの発表時イメージ 画像: 荣耀公式サイト

先に結論:これは「ロボット」より「自走する撮影機材」

Robot Phoneを短く表すなら、AIスマホに小型ジンバルを内蔵した製品です。ロボットらしい動きは確かにありますが、家庭内を自律走行したり、人の代わりに作業したりする端末ではありません。

見るポイントRobot Phoneの特徴実際の意味
カメラ4自由度のチタン合金製ジンバル本体を動かさずに向きと構図を変えられる
AI撮影人物追尾、構図維持、自動運鏡一人で動画を撮るときの手間を減らせる
ロボットモード表情、首振り、音楽への反応、ジェスチャー認識スマホが「こちらを向く」物理的な反応を持つ
動画ARRI Look、LogC3、4K 120fpsなどスマホ動画を本格的な編集工程へつなげやすい
弱点厚さ、重量、発熱、可動部の扱い普通の薄型フラッグシップより気軽さに欠ける

つまり、買う理由は「AIに話しかけたいから」だけでは弱いでしょう。ライブ配信、料理動画、商品紹介、ダンス撮影、ビデオ通話のように、カメラを固定して自分が動く場面が多い人ほど、機械式ジンバルの価値を感じやすい製品です。

何が動くのか:背面カメラが小さな首を持つ

荣耀によると、Robot Phoneのジンバルは平行移動、俯仰、ロール、反転を含む4自由度の構造です。100個以上の精密部品を組み込み、三軸の最大制御速度は毎秒360度。ここで注意したいのは、これはメーカーが示す設計値であり、あらゆる撮影環境でその速度や安定性が保証されるという意味ではないことです。

Robot Phoneの機械式ジンバル 画像: 荣耀公式サイト

中国の中关村在线は、2億画素、1/1.28インチ、F1.6のメインカメラをこの機構に搭載していると報告しています。実際のレビューでは、歩きながらの追尾、俯仰方向の固定、FPV、90度・180度の回転運鏡など、通常の固定カメラにはない撮影方法が試されています。

ここで大切なのは、単に「カメラが回る」ことではありません。カメラの向きが本体の向きから独立するため、スマホを三脚に置いたまま、話し手が画面の中で動けます。料理をしながら手元を映す、展示会で商品を横切る、動画通話中に立ち上がる、といった場面では、撮影者の代わりに一部の仕事をしてくれます。

一方で、雷科技の実機レビューでは、左右の回転範囲に偏りがあり、片側へ大きく振ったあとに向きを調整し直す場面が指摘されています。展開から撮影まで数秒かかるため、普通のスマホのようにポケットから出して瞬間的に撮る用途では、内蔵ジンバルを使わないカメラのほうが向いている場合もあります。

一人撮影では本当に便利なのか

自動追尾はRobot Phoneの中で、もっとも分かりやすい実用機能です。画面上で人物を指定すれば、カメラがその人を追い、あらかじめ選んだ構図に収めようとします。中关村在线のレビューでは、ライブ配信やビデオ通話で、人物の移動に合わせてカメラの向きが変わる様子が紹介されています。

この使い方は、従来のスマホと小型三脚の組み合わせと比較すると理解しやすいでしょう。

撮影方法必要な操作向いている人
普通のスマホ+三脚自分で構図を決め、画面内にとどまる風景、記念写真、短い動画
スマホ+電動ジンバルジンバルを持つ、または別途設置する歩き撮り、手動の運鏡
Robot Phone本体を置き、人物と動きを指定する一人での配信、料理、商品紹介

もちろん、追尾があれば撮影が自動的にうまくいくわけではありません。障害物、複数の人物、暗い場所、急な動き、狭い室内では、カメラが意図しない人物を選んだり、構図が外れたりする可能性があります。公式機能の存在と、どの環境でも安定して使えることは別の話です。

YOYOロボットモードは「会話AI」にとどまらない

Robot Phoneのもう一つの特徴は、YOYOロボットモードです。荣耀の説明では、YOYOは手のジェスチャーを認識し、音楽のテンポに合わせてジンバルを動かし、会話中には画面上の表情と首の向きを変えます。画面の中のキャラクターが動くのではなく、端末そのものがこちらを向く点が従来の音声アシスタントと異なります。

YOYOロボットモードのイメージ 画像: 荣耀公式サイト

この機能は、MicroduckやLoonaのような家庭用コンパニオンロボットとは目的が違います。Robot Phoneには脚も車輪もなく、部屋を動き回ることはありません。その代わり、常に手元にあるスマホが、通知や通話の道具から、少しだけ「反応する存在」に変わります。

ただし、ここを感情のあるロボットと表現するのは適切ではありません。表情、首振り、音楽への反応は、用意された認識と制御の組み合わせです。中国メディアの実機レビューでも、現時点でもっとも説得力があるのは、AIが感情を持つことではなく、観察、方向転換、追尾、撮影という物理的なフィードバックを得たことだと評価されています。

Agentic OSは何を変えるのか

荣耀はRobot Phoneに、Agentic OSを中核としたYOYO Proを搭載し、感知、計画、推論、実行、フィードバックの流れを作ったと説明しています。たとえば、飲食店の予約、移動、KTVの予約などを複数のアプリにまたがって実行するデモが公開されています。

ここは期待と注意を分けて見る必要があります。メーカーのデモは、対応するサービス、アカウント、通信環境が整った条件での結果です。日本で同じアプリ連携ができるか、料金やログイン情報をどこまで預けるのか、失敗したときにユーザーが修正できるのかは、別途確認しなければなりません。

一方で、開発者がYOYOのスキルを作り、クラウドとの連携だけでなく、カメラやジンバルといった端末の機能を呼び出せるという方向性は興味深いものです。荣耀は発表会で、Seeedと組み合わせた小型車をRobot Phoneで制御する展示も行いました。これは量産スマホが、画面付きのAI端末から、外部の機械を動かすコントローラーへ広がる可能性を示しています。ただし、展示デモをそのまま一般ユーザー向けの完成機能とみなすべきではありません。

ARRIとの協業は、フィルター以上の価値があるか

Robot Phoneは、映画撮影機器メーカーARRIとの協業も大きく打ち出しています。ARRI Look、LogC3、ARRI Wide Gamut 3、10-bit 4:2:2の動画記録、LUTモニタリングなど、スマホとしては専門的な動画機能を備えます。

Robot PhoneのARRI動画機能 画像: 荣耀公式サイト

動画を撮って、そのままSNSへ投稿するだけなら、これらの機能を使い切る人は限られます。色補正をしないユーザーにとってARRI Lookは、撮影時に雰囲気を選べるプリセットに近いものです。一方、DaVinci Resolveで色を調整する人には、Log撮影と広い色域が後編集の選択肢を増やします。

ここでも、ARRIの名前だけで映画用カメラと同じ画質になるわけではありません。センサーサイズ、レンズ交換の自由度、音声入力、放熱、記録メディアなど、専用機との違いは残ります。Robot Phoneの価値は「映画カメラの代わり」ではなく、ジンバル、追尾、スマホ通信、編集用の素材を一台にまとめたことにあります。

サイズ、価格、耐久性はどうか

公式発表では、12GB+512GBモデルが9999元、16GB+1TBモデルが12999元です。中国での発売日は2026年8月18日。公式ストアには1年保証が案内されていますが、実際の価格や付属品、サービス内容は販売時期によって変わる可能性があります。

第三者レビューで報告された本体サイズは、厚さ約9.59mm、重量248g。6.31インチの画面と7060mAhバッテリーを搭載し、120W有線充電と50Wワイヤレス充電に対応します。一般的な薄型スマホより重く、背面のカメラ部分も大きく出っ張ります。これはジンバルを内蔵するために避けにくいトレードオフです。

また、長時間の4K撮影、画面表示、AI追尾、ジンバル駆動を同時に使えば、通常のスマホより発熱と電池消費が大きくなると考えるのが自然です。ZOLのレビューでも、一般的なスマホとしての電池持ちと、撮影機材として連続稼働させたときの負荷は分けて考えるべきだとされています。

可動部の耐久性も、購入前に見るべきポイントです。荣耀は精密部品や加工精度をアピールしていますが、落下、砂やほこり、カメラカバーへの接触、無理な力が加わった場合の長期耐久性について、ここで独立した長期試験の結論を出すことはできません。機械が入っている以上、通常の固定カメラより扱いに気を使う製品です。

日本で使う場合の注意点

Tom’s Guideは、Robot Phoneが現時点では中国での販売に限られていると報じています。日本で使う場合は、技適、対応バンド、Google系サービス、言語、保証、修理受付、YOYOの日本向け機能を個別に確認する必要があります。

特に、現地のアプリを横断して動くAIは、サービスの地域設定やアカウント仕様に強く依存します。中国での発表デモが、そのまま日本の地図、飲食店予約、決済、配車サービスで再現できるとは限りません。輸入価格だけを見て購入を判断するのは危険です。

どんな人に向いているか

向いている人

  • 一人でライブ配信や動画撮影をする
  • 料理、工作、商品紹介など、手を使いながら撮影したい
  • 小型ジンバルとスマホを一台にまとめたい
  • 機械が動くこと自体を楽しめる
  • Log撮影や色補正を試したい

待ったほうがよい人

  • 軽くて薄いスマホを最優先する
  • シャッターチャンスを逃さない普通のカメラがほしい
  • 日本での保証と日本語AIを重視する
  • 会話や癒やしを中心にした家庭用ロボットを探している
  • 可動部の故障リスクを取りたくない

結論:AIに「身体」を与える最初の一歩として面白い

荣耀Robot Phoneは、スマホを本当にロボットへ変えた製品ではありません。家庭用コンパニオンロボットのように歩くことも、Microduckのように動作を学習させることもできません。

それでも、AIの判断をカメラの向き、構図、首振り、外部機器の制御へつなげた点には意味があります。AIが画面の中で文章を返すだけでなく、現実の機械を少し動かす。その変化を、研究機ではなく量産スマホの形で試したからです。

現時点での評価は、「万人向けの次世代スマホ」ではなく、「一人撮影のための特殊なフラッグシップ」です。中国国内で対応サービスと保証を利用でき、撮影の自動化に明確な価値を感じる人には、価格に見合う可能性があります。日本の読者は、まず正規販売と通信・保証の条件が整うかを確認し、そのうえで動画機能と可動部に対価を払えるかを考えるのがよいでしょう。

参考資料・情報源

メーカー公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外の資料を照合して構成しています。

  1. 荣耀:Robot Phone発表
  2. 荣耀:Robot Phone仕様
  3. 荣耀公式ストア
  4. 中关村在线:Robot Phone深度体験
  5. 雷科技:Robot Phoneレビュー
  6. Tom's Guide:ポケットジンバルとの比較
  7. 荣耀:Robot PhoneとSeeedの機甲小車

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