USB-C充電器から動かせる手のひらサイズの直流安定化電源は、Arduino、Raspberry Pi周辺回路、モーター、LED、オーディオ基板の試作を小さな机で行うには便利です。ただし、「USB-Cを挿せば0〜30V・5Aを自由に出せる」「150W表記なら100W充電器より強い」わけではありません。FNIRSI DPS-150とALIENTEK DP100はいずれも入力電圧を下げるDC-DC降圧電源で、出力できる電圧と電力は上流の充電器・ACアダプターに制約されます。
結論から言えば、大きな画面、6組の設定、電圧・電流の推移表示を重視するならDPS-150、95gの携帯性、10組の設定、日本の電子部品店での買いやすさを重視するならDP100です。どちらも低電圧電子工作の補助電源としては実用的ですが、絶縁された複数出力、極低ノイズ、校正、長時間の定格運転、国内メーカーの保守が必要なら据え置き型を選ぶべきです。
本稿は実機試用ではなく、2026年8月9日に確認した公式仕様、取扱説明書、国内販売情報と第三者の測定・使用報告を照合した比較です。
DPS-150とDP100の違いを先に比較
| 項目 | FNIRSI DPS-150 | ALIENTEK DP100 | 購入判断への影響 |
|---|---|---|---|
| 出力公称 | 0〜30V、0〜5A、最大150W | 0〜30V、0〜5A、最大100W | 最大V・Aを同時に出せるとは限らない |
| 入力 | USB-C PD/QC、DC 5〜32V | USB-C PD/QC、DC 5〜32V | 両方とも降圧のみ。入力より高い電圧は出せない |
| 設定分解能 | 10mV、1mA | 10mV、1mA | 表示桁は校正精度や低ノイズを保証しない |
| 画面 | 2.8型 320×240、角度可変 | 0.96型 160×80 | 机上の見やすさはDPS、収納性はDP100 |
| プリセット | 6組 | 10組 | よく使う3.3V、5V、9V、12V等を登録できる |
| サイズ・重量 | 106×76×28mm、約178g | 100.4×62.2×17.2mm、約95g | 工具箱へ常備するならDP100が軽い |
| 公式リップル表記 | 20mV未満 | 2mVrms/10mVp-p以下 | 条件付きの公称値。上流電源と配線でも変わる |
| 2026年8月の価格口径 | 公式69.99米ドル、国内モール約9,800〜11,880円 | 国内専門店約8,800〜9,800円 | 電源アダプター、ケーブル、保証窓口を含めて比較 |
価格は確認時点の表示で、送料、クーポン、付属電源、販売者によって変わります。未解析のAmazon商品リンクは掲載していません。DP100は秋月電子通商や共立エレショップで型番一致の国内在庫を確認できる一方、DPS-150の国内モール品は販売者ごとに保証とセット内容を確認する必要があります。
最大150W/100Wをそのまま信じてはいけない
電源の上限は、電圧×電流で決まります。30V×5Aは150Wですが、DPS-150へ一般的な100W USB PD充電器をつないでも、入力は通常20V×5Aまでです。変換損失もあるため、30V×5Aを作ることはできません。そもそも両機は昇圧せず、入力より少し低い電圧までしか出せません。
DPS-150で30V・5Aに近い領域を使うなら、DC入力へ約32V・5Aを供給できる適切な上流電源が必要です。FNIRSI公式は入力5〜32V、最大5A、出力最大150Wとしていますが、高出力時の発熱と換気にも注意を求めています。USB-Cだけで完結する軽作業では、150Wという数字より、充電器が実際に交渉した入力電圧を画面で確認する方が重要です。
DP100の公式説明書も降圧動作を明記し、入力5〜32V、出力最大100Wとしています。USB-C端子が28VのUSB PD 3.1 EPRへ自動対応するとは限りません。100W級PD電源を使っても入力表示が20Vなら、24Vや30Vの出力は選べません。24V系PLC、車載機器、LEDを扱う人は、対応するDCアダプターと付属のDC-Type-C変換ケーブルを用意するか、最初からAC入力一体型の据え置き電源を選びます。
FNIRSI DPS-150:画面と操作性を優先する人向け
2.8型の角度可変画面を持つDPS-150。画像:FNIRSI公式サイト
DPS-150の強みは、電圧、電流、電力、積算Ah/Wh、内部温度、CV/CC状態を一画面で確認しやすいことです。波形表示はオシロスコープの代わりではありませんが、負荷が起動時にどの程度電流を要求したか、設定した電流制限へ当たったかを追う補助になります。6組のプリセットと物理ホイールも、3.3V、5V、9V、12Vを行き来する試作で便利です。
公式は電圧・電流設定精度、20mV未満のリップル、過電圧、過電流、過電力、過熱、逆接などの保護を掲げます。Kerry Wongの第三者レビューでは、設定電圧・電流、負荷、温度、リップル、保護動作と内部構造まで確認されています。公開検証があることは安心材料ですが、メーカー公称や単体レビューを校正証明と同一視してはいけません。
注意すべきなのは、急に消費電流が変わる負荷です。bunnie studiosは、Raspberry Pi 4のCPU負荷が上がる瞬間に過電流保護が作動して起動できない事例を報告しています。一例だけで全個体を断定できませんが、モーター、無線機、コンピューターのように突入・過渡電流が大きい対象では、電流制限を安全な範囲で確保し、保護動作と配線電圧降下を切り分ける必要があります。
ALIENTEK DP100:小ささと国内調達を優先する人向け
厚さ17.2mm、約95gのDP100。画像:ALIENTEK公式サイト
DP100はDPS-150の約半分の重量で、工具ポーチへ入れやすい製品です。公式説明書は0〜30V、0〜5A、最大100W、電圧10mV・電流1mA単位、10組のプリセットを案内しています。USB-A端子はPC接続のほか、ホストモードでマウス操作や5V/1A出力にも使えます。
ALIENTEKは設定精度、読取精度、負荷変動、リップルの条件をDPS-150より細かく公開しています。EEVblogのレビューとイチケンの測定記事では、コンパクトさだけでなく電圧・電流の挙動が検証され、ホビー用途での精度は良好と評価されています。ただし0.96型画面は情報量と視認性でDPS-150に及ばず、PCソフトとA-A USBケーブルの扱いも一般的なUSB機器より癖があります。
公式説明書には重要な制限があります。20Vを超える出力で短絡試験を繰り返さない、USB-AのGNDとバナナ出力の負極を短絡しない、PD認識に失敗した場合は入力コンデンサーが放電するまで3〜5分待つ、といった注意です。「保護機能付きだから意図的に何度でも短絡できる」と考えてはいけません。
国内では秋月電子通商が税込9,800円、共立エレショップが税込8,800円で型番DP100を掲載し、確認時には在庫がありました。国内販売店を選べば初期不良時の連絡先は明確になりますが、ALIENTEK公式の1年保証は販売店を通じて受ける条件です。レシート、注文番号、付属品を保管します。
CCとCVはどう設定するのか
Tektronixと菊水電子工業の解説どおり、通常は設定電圧を保つCV(定電圧)で動作し、負荷が設定電流を超えようとすると電圧を下げてCC(定電流)へ移ります。CCは「設定した電流を常に無理やり流す」機能ではなく、負荷へ流れる電流の上限を作る仕組みです。
初めて基板へ給電するときは次の順序が安全です。
- 出力をOFFにしたまま、対象機器の定格電圧と極性を確認する。
- 電圧を定格値へ、電流制限を予想消費電流より少し上へ設定する。
- 赤を正極、黒を負極へ接続し、クリップ同士が触れていないか確認する。
- 出力をONにして、CV/CC表示、電圧、電流、発熱、異臭を観察する。
- 想定外にCCへ入ったら、電流制限をむやみに上げず、短絡、逆接、起動電流、配線抵抗を調べる。
故障基板へ最初から5Aを許可すると、短絡箇所や細い配線へ大きなエネルギーを与えます。まず低い制限で異常を確認し、正常動作に必要な範囲だけ上げます。一方、制限を低くしすぎるとマイコンやモーターが起動せず、故障と誤認します。期待する通常電流と起動時ピークの両方を把握することが必要です。
バッテリー充電器や商用電源の代わりにはしない
両社の説明書はバッテリー充電時に逆流防止回路を推奨しています。しかし、電圧と電流を設定できることだけで、リチウムイオン、LiFePO4、NiMH、鉛蓄電池の専用充電器になるわけではありません。セル数、温度監視、終止条件、バランス、異常時遮断を理解できない場合は、電池メーカー指定の充電器を使います。
また、DPS-150とDP100の低電圧出力を扱うことと、上流のAC100Vアダプターを開けることは別です。商用電源側、分電盤、露出した一次側回路へ触れません。上流電源は日本で使用できるPSE表示と定格、プラグ、ケーブルを確認し、出所不明の大電力アダプターを組み合わせない方が安全です。
誘導性・容量性負荷は、メーカーの注意に従って出力OFFで接続してからONにします。モーターやコイルには逆起電力対策、長い配線には電圧降下と発熱対策が必要です。複数台の直列・並列接続も、出力の絶縁と説明書上の条件を確認できない限り行いません。
据え置き型を選ぶべきケース
| 用途 | 小型USB-C電源 | 据え置き型が有利な理由 |
|---|---|---|
| Arduino、センサー、LEDの短時間試作 | 適する | 小型で設定変更が速い |
| RC、車載12V機器の現場確認 | 条件付きで適する | 起動電流と配線を確認する必要がある |
| 24V PLC・制御基板 | DC入力を用意すれば可 | USB PD 20Vだけでは24Vを出せない |
| オーディオのノイズ評価 | 予備確認まで | 上流電源由来ノイズ、接地、リモートセンスが課題 |
| 正負電源、複数電圧の同時供給 | 不向き | 絶縁された複数チャンネルが必要 |
| 長時間の高負荷・業務評価 | 不向き | 定格余裕、校正、保守、端子安全性を優先 |
| バッテリーパック充電 | 原則不向き | 専用の監視、終止、バランス制御が必要 |
USB-C電源の価値は「据え置き機と同じ性能を最小化した」ことではなく、既存のPD充電器やDC電源を、設定可能な低電圧CV/CC出力へ変換できることです。ノイズを測る、複数電源を同期する、長時間自動試験する、校正値を記録する用途では、リモートセンスや絶縁チャンネルを持つ据え置き機が適します。
向いている人、向いていない人
DPS-150は、机上で画面を見ながら電圧・電流の変化を追い、現場にも持ち出したい人に向きます。DP100は、最低限の画面でよく、国内電子部品店から軽量な電源を購入したい人に向きます。どちらも、すでにDMMで極性と電圧を確認でき、オームの法則、CV/CC、対象回路の定格を理解している人ほど活用できます。
反対に、初めての電子工作で上流電源とケーブルの選定までしたくない人、商用電源機器を修理したい人、精密アナログ回路の低ノイズ評価、業務校正、電池パック充電を目的にする人には不向きです。最初の測定器、はんだごて、分解工具との役割分担はFNIRSI・Miniware・HOTOの携帯電子工具入門で整理しています。USB PD充電器とケーブルの条件はUSB-Cはんだごての電源選びも参考になります。
最終結論:数字より入力条件と使い方で選ぶ
見やすさと記録ならFNIRSI DPS-150、携帯性と国内調達ならALIENTEK DP100です。ただし購入前に、必要な出力電圧、通常電流、起動電流を決め、その電圧より高い入力を供給できるかを確認してください。30V・5A・150Wという最大値を一行で比較するだけでは、実際に作れる出力は分かりません。
低電圧回路へ給電するときは、出力OFFで接続し、極性、電圧、低めの電流制限を確認してからONにする。予想外のCC動作を安全装置の邪魔と考えず、短絡や起動電流の手掛かりとして読む。この基本を守れるなら、小型USB-C直流電源は電子工作の机と工具箱を確実に軽くできます。
参考資料・情報源
メーカー公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外の資料を照合して構成しています。
- FNIRSI DPS-150 公式製品ページ・仕様
- ALIENTEK DP100 公式製品ページ
- ALIENTEK DP100 公式ユーザーマニュアル
- 秋月電子通商:ALIENTEK DP100 国内販売ページ
- 共立エレショップ:ALIENTEK DP100 国内販売ページ
- 楽天市場:FNIRSI DPS-150 国内販売価格一覧
- Tektronix:DC Bench Power Supply Fundamentals
- 菊水電子工業:直流電源のOCPとCV/CC遷移
- Kerry Wong:FNIRSI DPS-150実機レビュー・分解
- EEVblog:ALIENTEK DP100 100W USB-C PSU Review
- イチケン:ALIENTEK DP100測定レビュー
- bunnie studios:DPS-150の急峻な負荷変動時のOCP事例