イヤホン市場では、長い間「耳を密閉して、外の音を遮断する」ことが高性能の証しとされてきました。カナル型イヤホンとアクティブノイズキャンセリングの進化は、その代表です。
その流れとは逆に、耳を塞がず、周囲の音を聞きながら音楽も楽しむという新しい使い方を広げたブランドがShokz(ショックス)です。中国では「韶音」の名で知られ、日本でもランニング用の骨伝導イヤホンとして定着しています。
Shokzが興味深いのは、既存の巨大市場で価格競争をしたのではなく、骨伝導技術とスポーツ用途を組み合わせ、自ら「オープンイヤー」という市場を育てたことです。
同社が公表したOmdiaのデータによると、Shokzはオープンイヤー型ヘッドホンの世界出荷台数で、2023年から2025年まで3年連続1位でした。2023年については、Frost & Sullivanも世界のオープンイヤーイヤホンとスポーツイヤホンの販売台数首位と認定しています。
Shokzの強みは、骨伝導からオープンイヤー市場を広げた技術の積み重ねと、骨伝導・空気伝導を用途別に分けた現在の製品構成にあります。
| まず知りたいこと | 回答 |
|---|---|
| Shokzはどこの国? | 中国 |
| 読み方 | ショックス |
| 中国語ブランド名 | 韶音 |
| 会社設立 | 2004年 |
| ブランド誕生 | 2011年、当初はAfterShokz |
| 本拠地 | 広東省深圳市 |
| 得意分野 | 骨伝導、オープンイヤー、スポーツ用・水泳用・通話用イヤホン |
| 世界での位置 | オープンイヤー型の世界出荷台数で2023〜2025年首位(Omdia、Shokz公表) |
Shokzは中国・深圳発のブランド
Shokzを展開する深圳市韶音科技有限公司は、2004年に中国・深圳で設立されました。会社の出発点は、音響と信号処理に関する製品の研究開発です。
2007年に骨伝導を使った消費者向け製品へ進み、2009年には消費者向け骨伝導イヤホンBCT10を開発。2011年に「AfterShokz」ブランドを立ち上げ、初代Sportz M1を発売しました。
ここで区別したいのは、会社の設立は2004年、Shokzブランドの始まりは2011年という点です。
初期のAfterShokzは米国の展示会や販売網で存在感を高めたため、海外ブランドと思われることもあります。しかし、開発元と本社は中国・深圳にあります。
2021年末にブランド名をAfterShokzからShokzへ変更すると発表し、2022年に製品名、ロゴ、公式サイト、店舗などを全面的に切り替えました。名称を短くしたことで、骨伝導だけに限定されないグローバルな音響ブランドとして展開しやすくなりました。
骨伝導を「日常で買える製品」にした
骨伝導そのものはShokzが発明した技術ではありません。音の振動を頭部の骨などを通して内耳へ届ける仕組みは以前から知られ、軍事、業務、補聴などの分野で利用されてきました。
Shokzの功績は、その技術を一般消費者が運動中に使える、小型で軽量なBluetoothイヤホンへ仕立てたことです。
骨伝導イヤホンは耳の穴へイヤーチップを入れず、耳の前にある振動ユニットを当てて使います。そのため、音楽を再生していても車、自転車、人の声など周囲の音を聞き取りやすくなります。
一方、実用化には多くの難題がありました。
- 振動ユニットを小型・軽量にする
- 低音を強めながら、顔に伝わる不快な振動を抑える
- 外へ漏れる音を減らす
- 汗や水に耐える構造にする
- 走ってもずれにくく、長時間でも痛くなりにくい形にする
- マイク通話とバッテリー持続時間を改善する
Shokzは、振動ユニット、漏音低減、音声処理、装着構造、防水をまとめて改善し続けました。単に骨伝導の部品を作るのではなく、運動用イヤホンとして完成させるための総合設計を積み重ねたことが強みです。
Shokzは「骨伝導だけ」の会社ではなくなった
現在のShokzをすべて骨伝導イヤホンと呼ぶのは正確ではありません。同社は現在、耳を塞がない製品を大きく複数の方式に広げています。
| 方式・形状 | 主なシリーズ | 特徴 |
|---|---|---|
| ネックバンド型・骨伝導中心 | OpenRun、OpenMove | 激しく動いても安定しやすく、ランニング向け |
| ネックバンド型・骨伝導+空気伝導 | OpenRun Pro 2 | 骨伝導の中高音と空気伝導の低音を組み合わせる |
| 耳掛け型・空気伝導 | OpenFit | 日常、仕事、軽い運動で使いやすい完全ワイヤレス型 |
| イヤーカフ型・空気伝導 | OpenDots | 耳へ挟む小型デザインで、左右を意識せず装着できるモデルもある |
| 水泳用 | OpenSwim | 高い防水性と本体内音楽再生を重視 |
| 通話・業務用 | OpenComm、OpenMeet | ブームマイクや長時間通話を重視 |
つまり、Shokzが守っている中心思想は「骨伝導」そのものではありません。耳を塞がないオープンリスニング体験がブランドの軸です。
骨伝導で作った市場を、空気伝導のOpenFitやイヤーカフ型のOpenDotsへ広げたことで、ランナーだけでなく、通勤、家事、育児、仕事で長時間使う人も対象になりました。
世界出荷3年連続1位、どの市場でトップなのか
「Shokzは世界1位」という表現は、対象市場を正しく理解する必要があります。AppleやSamsung、Sonyを含むイヤホン市場全体で1位という意味ではありません。
Shokzが2026年2月に公表したOmdiaのデータでは、耳を塞がない非入耳型のオープンイヤーヘッドホン市場において、世界出荷台数が2023年、2024年、2025年の3年連続1位です。
Omdiaはオープンイヤー型を、周囲の状況を把握できる非入耳設計で、骨伝導または空気伝導を利用し、耳掛け、イヤーカフ、ネックバンドなどの形状を持つ製品と定義しています。
同じ発表によると、2025年のオープンイヤー製品は世界のパーソナルオーディオ市場の10%以上を占め、年間出荷台数は3,000万台を超えました。かつて一部のランナーが使うニッチ製品だったものが、大きなカテゴリーへ成長したことが分かります。
また、Frost & Sullivanは2023年の世界販売台数をもとに、Shokzをオープンイヤーイヤホンとスポーツイヤホンの双方で首位と認定しました。
この実績の価値は、成長市場へ後から参入したのではなく、Shokz自身が長年かけて利用場面と製品カテゴリーを作った点にあります。
なぜShokzは自分の市場を作れたのか
1. 技術ではなく「ランニング中の安全」を売った
骨伝導は仕組みだけを説明すると、一般消費者には分かりにくい技術です。Shokzはそれを「走りながら車や人の声が聞こえる」「耳が蒸れにくい」「イヤホンが落ちにくい」という明確な価値へ変換しました。
ランナーにとって、周囲の音が聞こえることは追加機能ではなく、安全性と快適性に直結します。通常のイヤホンより音質で劣る部分があっても、運動中の使いやすさでは優位を作れました。
2. スポーツの現場でブランドを育てた
Shokzはマラソン、トレイルランニング、トライアスロン、自転車競技との関係を継続的に築いてきました。エリウド・キプチョゲをはじめとするトップ選手と契約し、UTMB、IRONMAN、ツール・ド・フランスなどの競技や組織とも協力しています。
2026年には、ボストン、ロンドン、シドニー、ベルリン、シカゴ、ニューヨークという6つのAbbott World Marathon Majors大会で公式ヘッドホンパートナーになりました。
これは単なる広告ではありません。ランニング用品は、実際に走る人が使っているか、汗や長時間の運動に耐えられるかが信頼に影響します。Shokzはスポーツの現場を、ブランド認知と製品開発の両方に使ってきました。
3. 弱点を放置せず、音質と形状を更新した
骨伝導イヤホンは、耳を密閉するカナル型より低音の量感を出しにくく、大音量では振動や漏音も気になりやすい製品です。
ShokzはOpenRun Pro 2で骨伝導と空気伝導を組み合わせ、低音を専用の空気伝導ユニットへ担当させました。OpenFitでは耳の近くにスピーカーを置く空気伝導方式を採用し、完全ワイヤレス型でもオープンイヤーを実現しています。
一つの技術方式に固執せず、利用場面に合わせて方式を変えたことが、競合が増えた後も首位を維持できた理由の一つです。
代表製品1:OpenRun Pro 2
OpenRun Pro 2は、Shokzのスポーツブランドとしての現在地を最も分かりやすく示すモデルです。
画像: Shokz日本公式サイト
従来の骨伝導だけではなく、中高音を骨伝導、低音を空気伝導ユニットで再生するDualPitch構成を採用しています。耳を塞がないことと安定した装着感を維持しながら、骨伝導製品の弱点だった低音を補う設計です。
ネックバンドで左右がつながっているため、完全ワイヤレス型より収納時はかさばります。一方、走っても左右のイヤホンを落としにくく、ボタン操作もしやすいため、ランニングやサイクリングでは合理的です。
Shokzをスポーツ目的で選ぶなら、まず比較の基準になる製品です。
代表製品2:OpenFit ProとOpenFitシリーズ
OpenFitシリーズは、Shokzが骨伝導専門ブランドからオープンイヤー総合ブランドへ進んだ象徴です。耳掛け型の完全ワイヤレスイヤホンで、音は耳の近くに置いたスピーカーから空気を通して届けます。
2026年に登場した上位モデルOpenFit Proは、オープンイヤー型でありながら周囲の騒音を抑える機能を取り入れ、Dolby Atmosにも対応しました。
画像: Shokz日本公式サイト
密閉型イヤホンのように外音を完全に遮断するものではありませんが、開放感を保ったまま、オフィスや交通機関で音声を聞きやすくする方向を狙っています。
より軽さと価格のバランスを求めるならOpenFit 2やOpenFit Air、ワイヤレス充電とDolby Audioを重視するならOpenFit 2+も候補です。
OpenFit系は、ランニングだけでなく、家事をしながら家族の声を聞きたい人、仕事中に声をかけられる環境で使いたい人、カナル型の圧迫感が苦手な人に向いています。
代表製品3:OpenDots ONE
OpenDots ONEは、耳掛けではなく耳へ挟んで使うイヤーカフ型です。Shokzがスポーツ用品らしい外観から、より小型で日常的なウェアラブルへ広がった製品です。
画像: Shokz日本公式サイト
片側約6.5gの小型設計で、左右のイヤホンを自動判別するため、ケースから取り出すときに左右を確認する必要がありません。単体で最大10時間、ケース込みで最大40時間の再生に対応します。
イヤーカフ型は、帽子や髪型との相性がよく、耳掛け型よりアクセサリー感覚で使いやすいことが魅力です。一方、耳の形によってフィット感が変わり、眼鏡やマスク、ヘルメットとの組み合わせも個人差があります。
代表製品4:OpenSwim Pro
OpenSwim Proは、水泳と陸上の両方で使うためのモデルです。IP68の防塵・防水性能を備え、Bluetooth再生に加えて本体内へ音楽を保存するMP3モードに対応します。
画像: Shokz日本公式サイト
水中ではBluetooth通信が実用的に届かないため、泳ぐときは本体へ保存した音楽を再生します。プール以外ではBluetoothイヤホンとして使えるため、ランニング、ジム、水泳を1台にまとめたい人向けです。
この製品は、Shokzが単に「耳を塞がない」という一般論ではなく、水泳という具体的な利用場面に合わせて製品を作る会社であることをよく表しています。
Shokzの強み
Shokzの強みは、骨伝導の知名度だけではありません。
- オープンイヤー製品を長年開発してきた技術蓄積
- 振動、漏音、音質、防水、装着感を一体で設計する力
- ランニング、水泳、仕事など用途ごとに製品を分けている
- スポーツ選手や大会との長期的な関係
- 日本を含む世界各国で公式販売とサポートを展開している
- 骨伝導に固執せず、空気伝導やイヤーカフ型へ拡張した製品戦略
特に重要なのは、スペック競争ではなく「いつ使うのか」が明確なことです。OpenRunは走るため、OpenSwimは泳ぐため、OpenCommは話すためというように、購入理由が分かりやすく設計されています。
購入前に知っておきたい弱点
Shokzは優れたブランドですが、オープンイヤー型はすべての用途で密閉型イヤホンより優れているわけではありません。
騒がしい場所では音が聞こえにくい
耳を塞がないため、電車、飛行機、繁華街などでは周囲の音に負けやすくなります。音量を上げすぎると、オープンイヤーを選ぶ意味が薄れ、聴覚への負担や音漏れも増えます。
同価格の密閉型より音質で不利になることがある
低音の量感、細かな音、静かな空間での没入感を最優先するなら、同価格帯のカナル型イヤホンやヘッドホンが有利です。Shokzの価格には、軽さ、装着構造、防水、独自の音響技術も含まれています。
通勤時の遮音とAI通話機能を優先する場合は、AnkerのAIノイズキャンセリングイヤホン評価が対照的な選択肢です。
音漏れはゼロではない
漏音低減技術は進歩していますが、静かな図書館や満員電車で大音量にすると、周囲へ聞こえる可能性があります。骨伝導だから絶対に音漏れしない、という理解は誤りです。
装着感には個人差がある
ネックバンドの長さ、耳掛けの形、イヤーカフの挟む力は、人によって合う・合わないがあります。眼鏡、帽子、ヘルメットを使う人は、可能なら店頭で試着したほうが確実です。
周囲の音が聞こえても安全が保証されるわけではない
オープンイヤー型は環境音を把握しやすい設計ですが、交通量の多い場所での安全を保証するものではありません。自転車での使用は、地域の法令や安全ルールも確認する必要があります。
密閉型を価格帯別に比較する場合は、REDMI Buds 8 LiteとXiaomi Buds 5 Proの比較も参考になります。
どのShokzを選べばよい?
| 使い方 | 選びやすいシリーズ | 理由 |
|---|---|---|
| ランニングを本格的に続けたい | OpenRun Pro 2 | 安定感、操作性、低音を含む音質のバランス |
| 初めて骨伝導を試したい | OpenRun、OpenMove | スポーツ向けの基本形を比較的選びやすい |
| 日常と仕事で長時間使いたい | OpenFit 2、OpenFit 2+ | 完全ワイヤレスで、耳掛け型の安定感がある |
| 開放感と騒音低減を両立したい | OpenFit Pro | オープンイヤー向けの騒音低減機能を搭載 |
| 小さく、アクセサリー感覚で使いたい | OpenDots ONE、OpenDots 2 | イヤーカフ型で収納しやすい |
| 水泳でも使いたい | OpenSwim Pro | IP68、Bluetoothと本体内音楽再生に対応 |
| オンライン会議や通話が中心 | OpenComm、OpenMeet | ブームマイクと通話用途を重視 |
初めて選ぶ場合は、「骨伝導か空気伝導か」だけで決めるより、走る、泳ぐ、働く、家事をするといった利用場面から決めるほうが失敗しにくいでしょう。
中国ブランドが世界トップになれた理由
中国の家電ブランドには、巨大なサプライチェーンを使い、既存製品を低価格で量産する企業も多くあります。しかし、Shokzの成長はそれだけでは説明できません。
同社は2000年代から骨伝導という難しい分野へ投資し、2011年から消費者向けブランドを育てました。AppleのAirPodsが登場する以前から、運動中に耳を塞がないという別の価値を提案しています。
さらに重要なのは、骨伝導を売り続けるだけで終わらなかったことです。市場が拡大し、Huawei、Bose、Soundcoreなど競合が増えると、OpenFitやOpenDotsを投入し、オープンイヤーという上位カテゴリーへブランドを広げました。
Shokzは「中国製だから価格が安い」というブランドではありません。独自技術、特許、スポーツ市場での信頼、装着感の研究に価格をつけるプレミアム寄りのブランドです。
その意味で、DJIがドローン、Insta360が360度カメラで世界市場を作ったように、Shokzはオープンイヤー音響で中国企業が独自カテゴリーを築いた代表例といえます。
まとめ:小さな技術を世界市場へ育てたShokz
Shokzは、中国・深圳で生まれたオープンイヤーイヤホンブランドです。会社は2004年に設立され、2011年にAfterShokzとして消費者向けブランドを開始。骨伝導技術をランニング、サイクリング、水泳、仕事へ持ち込み、耳を塞がないイヤホンを一つの市場へ育てました。
Omdiaのデータを引用した同社発表によると、オープンイヤー型の世界出荷台数で2023年から2025年まで3年連続首位です。これはイヤホン市場全体の1位ではありませんが、自ら切り開いた成長カテゴリーで世界トップを維持していることには大きな意味があります。
現在は、スポーツ向けのOpenRun Pro 2、日常向けのOpenFit、イヤーカフ型のOpenDots、水泳向けのOpenSwim、通話向けのOpenCommへ製品を広げています。もはや骨伝導だけの会社ではなく、「耳を塞がない」という体験を複数の技術と形で提案する会社です。
静かな場所で最高の音質へ没入したいなら、密閉型イヤホンのほうが適しています。一方、走りながら車の音を聞きたい、家族や同僚の声に気づきたい、耳の圧迫感を避けたいという人には、Shokzならではの価値があります。
既存の大市場へ後から参入するのではなく、長期間の技術開発によって自分の競技場を作り、そこで世界トップになる。Shokzは、中国ブランドの強さを考えるうえで、非常に分かりやすい成功例です。
参考資料・情報源
メーカー公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外の資料を照合して構成しています。
- Shokz韶音 中国公式サイト
- Shokz韶音 - ブランド紹介・歴史
- Shokz韶音 - 企業紹介
- Shokz日本公式サイト - ブランド沿革
- Shokz日本公式サイト - オープンイヤー技術
- Shokz - Omdiaによる世界出荷台数3年連続1位
- Omdia - Open-ear headphones move beyond form-factor differentiation
- Shokz日本公式サイト - 2023年世界販売台数に関する発表
- Shokz OpenRun Pro 2
- Shokz OpenFit Pro
- Shokz OpenDots ONE
- Shokz OpenSwim Pro